情シスの質が、会社の質を作る。—— freee株式会社 CIO 土佐鉄平
「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに掲げ、利用事業者数が100万件を突破し、クラウド会計ソフト導入シェアNo.1となったfreee株式会社。その初代専任CSIRTメンバーに着任し、今はCIOとして社内IT全般の責任者を任される土佐鉄平。彼は、なぜ情シスを目指し、いま情シスとしてなにを思うのか。最前線を走る情シス担当にフォーカス。
情シスを目指すきっかっけはNHKの「マネー革命」だった
――土佐さんは学生時代から、IT志望だったと聞きます。なにかきっかけがあったのでしょうか?
そうですね。学生時代から、この仕事に憧れがありました。高校生の頃にNHKのマネー革命っていう特番があってですね、プログラミングで株とか為替とかを予測して大金持ちになったアメリカ人のすごい人たちの特集やってたんですけど、それを見てものすごくかっこいいなと思って。その時に自分も金融ITをやりたいなって思ったのがきっかけで、大学は文系でしたが、経済系の学部でファイナンスを専攻して、アルバイトでプログラミングを覚えて、ほぼ独学ですが、少しずつスキルを身につけていきました。
――その番組ではどういう方が紹介されてたんですか?
マイロン・ショールズとか、フィッシャー・ブラックですね。理由はわかりませんが、すごくかっこよく見えました。
――その番組に影響を受けて高校時代からIT志望だったんですか?
ITの世界で働きたいという思いが芽生えたのは確かですが、ITを目指す前に、私は小さい頃から何か物を作るのすごく好きで、特に「道具」を作るのが好きでした。高校時代は陶芸部に入って、お皿作ったりしてたんですけど、道具を作るって、なんて言うんでしょうか、レバレッジを効かせられるというか、道具の如何によって、多くの人のパフォーマンスが変わってくる、ひとの生産性や効率性にすごく影響を与えられるものだと思うんです。昔から、ひとのパフォーマンスを支える道具を作るということにすごく楽しみを覚えていて、ITもその一環として興味を持ったんだと思います。
――ITとモノ創りは一般的にはすこし距離があるようにも思いますが、土佐さんの中ではなにか共通するものがあるのでしょうか?
そうですね。ITというと、物理的なものはなくて、ソフトウェアを扱っているわけなんですけれども、それもやっぱり私は道具だと思っていて。ひとの効率性や生産性を引き出して大きな結果につなげるものが広く言うと道具だと思ってまして、そのくくりで言うと、ソフトウェア作りもモノ作りも根っこの部分は一緒だと思ってます。
キャリアの初期からモノ作りが出来たわけではなかった
――土佐さんは学生時代から、IT志望だったと聞きます。なにかきっかけがあったのでしょうか?
マネー革命がきっかけで金融ITに興味をもって、新卒は銀行のシステム会社に入ったんです。バリバリプログラミングとかデリバリーとかやるつもりで入ったんですけど、想像していたのと全く違う分野の業務で(笑)、銀行のシステム会社ってシステム開発のフローの最上流にいるので、プログラミングも全然やらないんですよ。モノ創りをするために入ったのに、実際に作る仕事がほとんどないという状況でした。
――思い描いていた理想とは異なる環境でフラストレーションもあったんじゃないですか?
フラストレーションがなかったといえば嘘になります。ただ、自分は文系学部卒ですが、学生時代からプログラミングをしていたので、周りからは技術力が高い奴みたいな評価を得ることも出来て、かなり数は少ないんですけど、当時いくつか社内にあった内製プロジェクトの担当の座を掴むことができて、銀行時代にも実際にモノ作りを直接やることができました。この経験はとても大きくて、会社や、その中での立場の制約があっても、諦めなければ自分の理想とする環境を築けるという感覚があります。そこから研究開発部門に異動して、そこではかなり自分で手を動かして新技術を銀行に届けるみたいな役割をやれたので、最初のキャリアにはとても満足しています。
――そこからfreeeに転職するきっかけはなんだったんでしょう?
入社する前から社長の佐々木と知り合いで、年に1、2回会う機会あったんですが、その佐々木からある時メッセージが来てですね。五反田にオフィスを移動したから遊びに来てください、と言われて、言葉のとおり遊びに行ったらですね、明らかにここは面接だなという感じの空気で笑その日にオファーをいただいて、ちょうど前職のいろんなプロジェクトの切れ目としてもタイミングが良かったし、もっとバリバリ自分でプログラミング、モノ作りがしたいなという 思いもあったので、転職したという感じです。
――大手銀行システム会社からスタートアップへの転職でギャップに悩むなどはなかったのでしょうか?
freeeは当時からミッションやビジョンが今と変わらずとてもしっかり定められていて、知り合いの佐々木から誘われたという以上に、そもそもfreeeのミッションやビジョンに共感して入ったので、あまりギャップはありませんでした。CIOという立場になった今でも、マネージメントとバランスを見ながら、自分でプログラミングもしますし、やりたいことが出来ている実感がずっとあります。
情シスの質が、会社の質をつくる。
――freeeでは情シス全般のことを任されていると思うのですが、土佐さんはご自身の仕事はどんな点で会社に貢献できているとお考えですか?
freeeでは社内IT全般の責任者をやっていて、社員15名、業務委託をいれると20名程度のチームとして担当しているのですが、私達の部門は基本的には社内向けのサービスですので、あまりプロダクトのUXに直接貢献するところはないんですけれども、よくうちの部署のメンバーにここで仕事するうえで大事なこととして伝えていることがあります。まず我々の仕事は会社のインフラづくりなので、安心、安全、安定を提供することが一番大事だと言ってます。ただ、それだけだとコスト部門で終わってしまうので、もっとこうfreeeらしさ、カルチャーへの貢献とか事業への貢献に繋げていくことが大事だよねという話をしています。
freeeは特にカルチャーをすごく大事にしていて、短期間ですごい社員を増やしてきた会社です。例えば、社員が日々触れるパソコンやネットワーク、これが使いづらいとか、繋がりにくいとなると、社員はどう感じるでしょうか?そういう点では、我々のアウトプットって、実は会社そのものだとも言えると思うんです。極端な話をすると、パソコンがしょぼかったり、ネットワークが不安定だったりすると、ダメな会社だなと社員は思うでしょうし、そこが安定していると、良い会社だな、しっかりした会社だなとなるので、我々のアウトプットが会社そのものに見られるんです。
部署のメンバーにはいつもその話をしていて、freeeがfreeeらしくあるためには、そのベースとなる基盤づくりを自分たちがしっかり担っていかなければならない、情シスの仕事の質が、会社の質をつくるんだ、という話をしています。
――先程、土佐さんがおっしゃっていたモノ作り、ひとの生産性や効率性にレバレッジをかける道具づくりの話にたどりつくわけですね?
はい、わたし達の情シスは、freeeのサービスやプロダクトを直接つくるわけではありませんが、それが生まれる器をつくっているという意識がありますし、そこにプライドをもって仕事をしたいと思っています。社員のみんなが、イキイキとのびのび仕事ができる環境をつくるのが我々の仕事で、その環境さえ作れれば、freeeのプロダクトもサービスももっともっと成長していけるはずだと思っています。
情シスが良い仕事をする会社は、きっと良い仕事をする。
――土佐さんが考える情シスとして働く醍醐味というか、矜持みたいものがあれば、ぜひ教えていただけますか?
そうですね、情シスの仕事は、やっぱり提供価値を提供する相手がすごく近くにいるところが面白いと思っていて、ダイレクトにいいフィードバックも悪いフィードバックももらえますし、先ほど言ったように、自分たちの仕事の質が、会社の文化や生産性、効率性に直結するというところは、プロダクトやサービスを作るのとはまた違う面白さがあるんじゃないかなと思ってます。プロダクトやサービスももちろん当然大事なんですけども、そのプロダクトをつくる人を支えるサービスやプロダクトも大事なんです。モノ作りをする人たちを支えるモノ作りが出来る、それが情シスの醍醐味ですし、やりがいじゃないでしょうか。
――最後にこれから情シスとして働きたいと考えている若い人や、同じ業界にいる同士たちになにかメッセージがあればお願いします。
情シスといっても会社の規模や業態によって仕事の内容は大きく変わると思います。ただ、情シスが良い仕事をする会社は、きっと「良い仕事をする会社」だと思います。情シスという職業に漠然としたイメージしか湧かない若い人たちには、情シスの仕事が実は会社の質や成長の土台をつくる大事な仕事だということを伝えたいですし、同じ業界にいる仲間たちには、みんなで良い仕事をしていけば、会社の垣根も、業界の垣根も越えて、世界がもっと良い仕事であふれるようになるはずだから一緒に切磋琢磨していきましょう、という思いがあります。